リレーノート⑧ 日本一まずいハンバーグを食べた仲
吉村達也
梶原さんとぼくは、ときにケンカもしながら、たくさんの本をつくってきました。
ぼくが扶桑社の編集者(編集長になっても最後まで現場仕事から離れなかったので、ぼくは退職時まで現役編集者でした)時代につくった本の総数は180冊ほどですが、その三分の一以上は、梶原さんとのコンビではないでしょうか。
仕事でもプライベートでもいろいろなところへ行きましたが、いまになっては、なんの用事でそこへふたりで行ったのか思い出せない旅行もあります。
それがX島(差し障りがあるので仮名にしておきます)への旅。
山田洋次監督が映画に好んで使いそうな、超レトロな映画館があったり、赤い郵便丸ポストがあったりと、とにかく時代の流れから取り残された風景があふれる島でした。
でも、ちゃんと飛行場はありました。「空港」というより「飛行場」という印象です。
そこで帰りの飛行機を待っているとき、かなり腹が減っていて、「なにかここで食べていこうか」という話になったのですが、とにかく空港内のレストランが、ただごとではないうらびれ方で、どんな料理が出てくるか、わかったもんじゃない、といった雰囲気。
「こういうところで高いメニューを頼むほどバカなことはないよね」と、話しながら、しかし安いメニューもどうも怪しげ。
そこでふたりの出した結論は「ハンバーグにしよう。ハンバーグだったら、たとえまずくたって、たかが知れてる」「そうだね。とりあえず腹がふくれればいいんだから、ゼイタク言わずに」「まさかハンバーグで大はずしはないでしょ」……ということで「ハンバーグ定食、ふたつください」
そして運ばれてきたハンバーグを口にしたとたん、ふたりとも絶句!
ぼくたちはふたりとも三十代で若かったから、べつに舌が肥えてるグルメ評論家だったわけじゃありません。とにかく腹がふくれればそれで満足といったレベルでしたから、まずい料理への適応能力も高かった(笑)。
でも、まずぼくがギブアップしました。
「だめだ、食えない、これ」
そして梶原さんも。
少なくともプロの調理人が作っているのに、食えないほどまずいハンバーグというのは、国宝ものの貴重さです。それでいて、ふたりとも気が弱くて、文句のひとつも言えずに、お金だけ払って飛行機に乗りました。
いまでもふたりの語りぐさです。
あのあと、ぼくは作家になってからひさしぶりにX島へ飛行機で降り立つことがありました。空港はずいぶんきれいになっていました。レストランも変わっていたし、当時のコックさんが残っているはずもないでしょうが、トラウマは消えず、ハンバーグを頼んでみようか、という勇気は出なかったのでした。