Vol.4

第2巻『京都魔王殿の謎』 リレーノート②
吉村達也



小説は作者の手を離れた瞬間、読者個人個人の感性や人生経験によって、オリジナルの作品に変貌する、というのが、かねてからのぼくの持論です。

同じ小説を10人が読めば、10通りの受け止め方があり、たった1個の作品が10の作品に増殖する。これが小説の(映画もそうです)面白いところです。

本プロジェクトのプロデューサーである梶原さんのリレーノートを読んで、「ああ、なるほど。この作品は純愛という視点から捉えることもできるのか」と、作者としてはじめて気づいた(笑)のも、同じ理屈です。



『京都魔王殿の謎』には、きわだって対照的なふたつの愛が出てきます。

ひとつは相手を真摯に思う愛です。しかし、もうひとつは、きわめて自己中心的で、相手の都合を考えずに、自分ひとりで勝手に爆走する「ゆがんだ愛」です。

しかも強烈なゆがみ方です。

小説の世界だけでなく、現実でも、この手の愛がいちばん危険なんです。

そう思われませんか?



作者は、このゆがんだ一方的な愛のすさまじさをミステリーの主軸に置いて書いたのですが、はからずもそれが、もうひとつのピュアな愛を相対的に浮かび上がらせる効果を生んだのかもしれないな、と、梶原プロデューサーのノートを読んでそう思いました。



本作は、『京都魔界伝説の女』がベースになっていますが、決定的に違うのが、事件を引き起こした心理のすさまじさのレベルです。それによって、旧作を読んだ方も驚く、まったく新しい結末が生まれました。



《事件の真相は 人間の想像を超えていた!》



これが第2巻のオビキャッチですが、旧作を発表した当時といまとでは、現実社会における人心の屈折度は較べものになりません。

その変化を登場人物にも投影したところ、新たなる驚愕の真相が必然的に浮かび上がってきた、というわけです。



旧作の「怨念度」を★★★とすれば、完全に新規で書き直した本作の怨念度は★★★★★といったところでしょうか。

氷室想介が21世紀に再登場した意味を強く感じさせる作品になったのではないかと思います。